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第2章 食と健康

第2章 食と健康

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藤尾 裕宣

2013-11-17
 
藤尾)これまで「不眠症」をテーマに対談を進めてまいりました。これからは「食と健康」をテーマに、前回に引き続き、世界的ストレス学者・医事評論家の響怜於奈先生にエグゼクティブ・アドバイザーとしてご教示いただきます。
さて、健康を考える際に、食の問題は不可欠のテーマです。
現代の日本では肉、野菜、魚をはじめ様々な食材が安価で容易に入手できるようになり、日本人の栄養状態は過去とは比較にならないほど良くなり、それにつれて平均寿命も飛躍的に伸びています。
しかしながら、世界を見渡すと飢餓に苛まれている人々が膨大な数にあがっている惨状を尻目に、大多数の日本人は十分な食事が得られる現状に対しての幸福感が薄いように思われます。昨今話題になっているレストラン等での偽装表示は、さらに安価で贅沢な食材を求めている人々への迎合があちこちで発生していることを示すものであり、「健康に良い」と言われる食物があればそれに殺到し、病気にならない、または病気を治す、というような歌い文句の高価な栄養補助食品がもてはやされています。
まず、食と健康を考えるにあたって、響先生はこのような日本の飽食の情況についてどのようにお考えになりますか?

響 怜於奈

2013-11-17
響)現代人が食と健康を考えるとき、「食獣はくらい、人間は食べる。教養ある人にして初めて食べ方を知る」(ブリアサブァラン『美味礼賛』より)から学ぶ必要があるでしょう。
 私たちは脳の前頭前野を使って、「何のために、いつ、何を、いかに上手に、どのくらい食べるか」と、自問自答することが肝要です。すなわち、獣ならぬ人間ならではの食の在り方を模索すべきだと思います。
 健全な脳の持ち主なら、脳の中の食中枢は正常ですから、上手な食べ方を獲得しています。ですから、テレビで、○○がいいといったら、こぞってスーパーに走るなんていうのは、人間的な食脳の使い方ではなく、食獣に近く愚かかつ滑稽とさえ言えますね。
 アンチエイジング医学では、食は健康方程式の一つとしてとらえています。
 健康の基本は、食事・運動・心の安寧(ストレスが少なく、生きがいをもち、気持ちが安定している状態)の三つです。よってスーパーに走って○○を買い占めても、即健康になるわけではないのです(笑)。
 ところである国の副大使夫人が、貧しい国々へのODAに熱心な日本にあって、テレビの大食い番組や食べ放題のお店の紹介番組は、いささか抵抗があるとおっしゃっていました。同感です。
 飽食の時代を安易に過ごしていると、食の大切さや尊さへの気持ちが失われていき、人間性崩壊に繋がらないか、懸念されます。
 ニッポンの食育は、食を介した人の道でなければならないと思います。飽食の時代から、何を学び、何を改めるか、今それが問われています。

藤尾 裕宣

2013-12-02
藤尾)全く同感です。私達が展開しているのはまさに「ヒューマン」ヘルス講座であり、「アニマル」ヘルス講座ではありません。否、時として人間の強欲は、それが国や企業などの集団で威力を発揮した場合は、絶妙なハーモニーを奏でる自然界の食物連鎖の中で営まれる動物達の食生活よりもはるかに自然に対して破壊的であり、不協和音となります。
 個人においても、食と健康を考えるにあたって重要なことは、まずは食欲のコントロールではないでしょうか。教養ある食生活を通して人間は人生に潤いと喜びをもたらすことが可能である反面、不適切で肥大化した欲望の行使は自身に不健康をもたらし、不幸になっていく原因となるでしょう。

響 怜於奈

2013-12-02
響)現代人が教養ある食生活を営んでいくためにも、食欲のコントロールが不可欠です。しかしながら食欲をきちんとコントロールできない人が少なくありません。テレビ・雑誌での美味しそうな食べものの特集や話題のレストランの宣伝、購買意欲を高めるスーパーの陳列棚の魅力化などの過剰な食情報が脳の視床下部の食欲中枢の働きを狂わせていると考えられます。
 したがって、食欲をコントロールするためには、食情報の多い夕食時のテレビ番組を見ないようにしたり、まずは野菜・海藻など体に必要なものからよく噛んで食べたあとに美味しいものに手をつける習慣をつけたり、ストレスを上手に発散するといった心がけが大切となります。

 食欲というのは、脳の報酬系から身体に与えられる一種の報酬と考えられます。すなわち体や頭を使うことで価値的なエネルギー消費をしたことへのご褒美と言えます。しかしながら、この報酬に過剰に反応すれば、ひたすら食べ、肥満体になってしまいます。
 特に注意すべきは空腹のときです。早く空腹感を埋めたいがために、ついお箸を置かずに次々と食材を口に運んでしまっていませんか。時々お箸を休めてゆっくり噛むことで、食欲はコントロールしやすくなります。よく噛んで食を味わうことで脳の働きにゆとりが生まれ、視床下部にあまりストレスを与えずに、食欲を満たすことができるわけです。

 
 レプチン(脂肪細胞)発見などの近年の食欲研究から、一度の食事時に20分以上時間をかけて食べないと、脳の満腹中枢は「食べた!」と実感を得ないことがわかってきました。言い換えると、急いでがつがつと10分で食べてしまう早食い癖の人は、また後でお腹がすき、間食したくなり、肥満化することになります。
 教養ある人たちと食席をご一緒しますと、皆様ほどよき雑談をしながら、30分以上かけてゆっくり綺麗に召し上がっています。こうしたスローフードスタイルだと、血糖値の上昇もゆるやかで、食欲も上手にコントロールされていくことになります。
 茶の間でも、社員食堂でも、レストランでも、居酒屋でも、スローフードで、食欲をコントロールする意識を身につけていきたいものですね。

藤尾 裕宣

2013-12-20
藤尾)確かに食事は楽しく、皆で和やかに語り合ってすることが大事ですね。しかしながら現実には家庭においては学業や仕事、または付き合などで帰宅が遅くなったり、ひとり暮らしであったり、日々多忙で食事時間が不規則であったりと、いろいろ困難な場合が多いでしょう。したがって、そのような現実に流されずに常に教養ある食生活を志向していくことが大事だと思います。特に家庭においては、全員が楽しく一緒に朝食をとって一日のスタートを切るということが、家族の絆を深めるためにも有効です。
 私の臨床経験では、長年朝食抜きの生活を送った方ほど糖尿病を発症しやすいようです。私自身、朝寝坊で朝食の時間が短く、「医者の不養生」と言われかねないような生活習慣を送っていますが、教養ある食生活を目指すにあたって、まずは朝食の重要性を認識する必要がありますね。
 
写真はバリ島郷土料理 ナシゴレン

 
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